2016,3月
事務所後継者求む!(後)
M氏が医学部へ進学したのは医者を志したのではなく難関大学への進学校として有名な高校へ入学したことがきっかけ「縁」でした。高校でも上位の成績だったM氏は将来なりたい職業も見つからず学校の進路担当の先生から云われた通りに受験し合格したのが国立大学の医学部だったとのことです。
ただ「志」なさの反動が入学してからM氏を襲います。医者を目指したのではないので講義にも興味がわかず自然と学校から遠ざかっていきました。M氏は他にやりたいこともなく好きな麻雀にのめり込んでプロの雀士として生活をしていくのです。
そして教養課程から専門課程へは当たり前のごとく単位不足になり進級ができず両親にも知らせないで逃げるように退学をしてしまうのです。
その後もプロの雀士として生活をしていましたが学生時代の知人に再会しそれがきっかけ「縁」で彼が経営していた不動産会社の仕事を手伝うことになります。しかしバブルもはじけそこでの仕事も長くは続きませんでした。
20代も後半に入ったある日M氏はミスタードーナツで高校時代の同級生に偶然出会いました。彼は会計士を目指して受験浪人をしていました。彼のアドバイスがM氏の税理士を目指すきっかけ「縁」になるのです。
日商簿記1級に合格すれば税理士の受験資格が得られるのでチャレンジしてみたらどうかとアドバイスを受け日商1級取得を目指すことにします。北新地で夜中から朝までアルバイトをしながら3級、2級そして1級までほぼ独学で勉強し1回の受験で見事日商1級を取得するのです。
日商簿記1級に合格し税理士試験の受験資格を得たM氏は税理士試験へチャレンジしますが何と最初の受験で5科目一括合格を目指します。もちろん生活もあるので北新地でアルバイトをしながらの受験勉強です。
税理士試験の何たるかを知らないM氏は1回目の受験で全く手ごたえを感じられず人生で初めて悔し涙を流したと云います。小さいころから勉強ができ試験に強かったM氏にとっては満点を取ることが当たり前だったのでしょう。
M氏は税理士試験も大学入試と同じように捉えていたので科目合格もしていないと思ったのですが、驚くことに結果は3科目(簿記論、財表論、法人税法)に合格していたのです。
そしてM氏は初めて会計事務所へ入ります。しかし半年もしないうちに事務所への不満を所長へ直訴し逆に反感を持たれ辞めさせられてしまいます。ただその年に受験した消費税法には合格し税理士試験は王手としました。
その時に前編でお伝えしたようにM氏と求職相談で出会いある会計事務所への紹介をさせていただいたのです。その事務所では仕事をまかせてもらえたのが幸いし一日も早く一人前になろうと人の倍は働きました。そのためか税理士試験の最後の科目合格はM氏でさえ遠のきましたが3年目には相続税法に合格しついに税理士試験合格を果たしたのです。
翌年は所長代理となり見合う給与を希望したのですが認められずM氏は転職ではなく独立開業を選択します。独立後7~8年は仕事も順調に推移し従業員も5名ほどになり会計事務所の平均規模を上回るまでになります。
しかしその後は仕事上でのミスを叱責したことで2名の従業員に数十件の顧問先を持って辞められ、ここ数年は自身も仕事上での対応に限界を感じ健康上の不安も抱えていたこともあり、将来の事務所経営に対して懐疑的になったことが今回の後継者を求める理由になったそうです。
M氏の話の中で「志」と「縁」の言葉が印象に残りました。医学部に入ったのも医者になりたいとの「志」が無かったので退学したと云います。今回、事務所後継者を募ったのも税理士になり独立開業することが「志」ではなかったので事務所に執着はないと云います。
「はじめに志ありき」とはよく云われます。普通の人であれば医学部へ入ることも税理士になり独立することも「志」の強さを求められるのですが、皮肉なことにM氏は単なるきっかけ「縁」だけで成し遂げてしまったことが執着しなかったことに繋がったのかもしれません。
まだまだ一仕事できる年齢のM氏にとって、今後は「志」を立てての仕事をしていくのか、今までのようにきっかけ「縁」での仕事をしていくのか、M氏自身も明言を避けます。ただ、税理士の仕事は好きだと云います。
*事務所後継者に関心のある税理士の方〈男女不問、開業税理士の方も可〉はぜひご連絡下さい。ご相談に乗らせていただきます。