税理士の現場から(K氏の投稿-苦悩編)
前回で投稿が終了の予定でしたが、少し現場のことを追記致したく、あと2回投稿させていただきます。最後まで、どうかお付き合い下さい。今回は「苦悩編」とでも題しましょうか? 開業税理士としてここ何年か悩み続けていることを徒然に記載したいと思います。
ご存知のように、所属税理士と異なり開業税理士は給与がありません。したがって、月次顧問報酬を頂ける顧問先がないと事務所経営及び生活が成り立ちません。
開業するとなると、やはり10件程度は顧問先(顧問料の単価にもよりますが)がないとやっていくのは難しいのではないでしょうか? 単純に10件と書きましたが、この獲得が大変です。
2代目、3代目は別ですが、新規開業するなると新規に顧客を開拓せざるを得ません。開業前に勤務していた顧問先を引き抜くのは至難の業ですし、雇う側もそれを警戒して持ち出されぬように予防線を張ります。中には入所時に念書を記載させる事務所もあるようです。
また、無事持ち出せても、勤務していた事務所に手数料を支払わなければならないというようなケースもあるようです。顧問先にとっては、寝耳に水で迷惑な話ですね。
たまに、担当していた顧問先が、「貴方が開業したら、我が社も移ります」などと言ってくれる場合や、知人・友人が「開業したら、頼むね」などと言ってくれる場合がありますが、実際に開業してみると大抵は顧問先になってはくれません。やはり、事務所からの締めつけがあったり、友人・知人に至っては、全てを知り合いに知られてしまうというのが、嫌なのでしょう。(税理士には守秘義務があるのですが・・・・)
となると、異常に高い手数料を要求する紹介会社を使ったり、ペイできない安い顧問料で獲得するしか道がなくなります。しかし、これらも税理士法の改正により報酬規定が廃止(平成14年3月)され、自由競争となり、顧問料が極端に下がってしまった現在では、逆に将来自分の首を絞める結果となってしまうのが自明の理です。
「ならば、税理士資格をとっても開業できないではないか?」という読者の方の批判を浴びそうですが、現実には「日本税理士会連合会」の「税理士実態調査報告書」によると下記のような結果となっています。
税理士登録者数と開業税理士
平成16年 平成26年 増減
登録者数① 67,368名 77,007名 9,639名
内、開業税理士② 63,516名 59,250名 ▲4,266名
②÷① 94.2% 76.9% ▲17.3%
登録者数は増加しているものの明らかに開業税理士の数も、登録者数に占める開業税理士の割合も減少しています。
開業税理士年齢構成概要 ※平成年のみ税理士登録者数の集計
平成6年 平成16年 平成26年
20歳代 1.1%(292) 0.3%(69) 0.1%(29)
30歳代 11.1%(3,050) 5.5%(1,340) 5.0%(1,238)
40歳代 16.4%(4,517) 12.8%(3,103) 13.5%(3,373)
50歳代 13.3%(3,668) 20.5%(4,974) 18.1%(4,516)
60歳代 43.1%(11,851) 21.1%(5,113) 35.4%(8,840)
70歳代 13.0%(3,580) 33.0%(7,990) 15.4%(3,849)
80歳代 1.8%(483) 6.0%(1,462) 12.0%(2.991)
無記入 0.2%(50) 0.8%(178) 0.5%(114)
合計 100.0%(27,491) 100.0%(24,229) 100.0%(24,950)
回答者数という限定条件があるものの、平成6年から平成16年までの10年間は世代構成がほぼそのまま押し上げられており、平成16年から平成26年までの10年間で年齢層が1段階低くなったような形となっています。
ということは、高齢者である階層が廃業し、40・50歳代辺りの新規開業者が増加しているのではないでしょうか? 試験合格者の高齢化(かつて記事にさせていただいた「税理士試験」編参照)とほぼ同じ動き方をしているように思われます。
開業税理士業務従事年数
平成16年 平成26年 増減
1年以下 3.0%(737) 3.4%(836) 0.4%(99)
3年以下 5.2%(1,256) 6.7%(1,662) 1.5%(406)
5年以下 5.3%(1,268) 6.3%(1,575) 1.0%(307)
10年以下 12.0%(2,908) 16.2%(4,054) 4.2%(307)
20年以下 32.0%(7,760) 25.2%(6,292) ▲6.8%(▲1,468)
30年以下 21.4%(5,187) 21.4%(5,336) 0.0%(149)
40年以下 15.3%(3,700) 12.0%(3,004) ▲3.3%(▲696)
40年超 4.9%(1,191) 8.2%(2,042) 3.3%(851)
無記入 0.9%(222) 0.6%(149) ▲0.3%(▲73)
合計 100.0%(24,229) 100.0%(24,950) (721)
5年以下の開業間もない税理士が全体で2.9%増加していることが分かります。つまり、年齢にかかわらず開業税理士が増えているということではないでしょうか?
企業者数が2004年:433万社から2014年:382万社へと51万社減少している(2017年中小企業白書より)にもかかわらず開業税理士が増加しているということは何を意味するのでしょうか?
やはり高年齢層の税理士が抱えていた顧客が新規開業の税理士へと流れているということではないでしょうか?であるならば、後は顧問先一人当たりの単価を上げていけば、新規開業の税理士が参入できる土壌があると考えるのは、飛躍した発想でしょうか?
個人報酬単価:3万円以下が50.9%、法人報酬単価:3万円以下が53.5%、5万円以下が27.3%(日本税理士連合会 第6回税理士実態調査報告書より)特に法人は、それなりの労力を要する案件であるにもかかわらず、月額5万円を超える報酬を得ているのが2割にも満たないのは頭の痛いところです。
私個人は、個人:2万円、法人:3万円(記帳代行手数料を含まず)を最低基準に考えています。この基準を確保できなければ自分の首を締め付ける行為だと思っています。
また、業界では自計化をしきりに勧める方向にありますが、個人的にはそれが税理士自身の首を絞めているように思います。記帳代行は手間のかかる仕事ですが、請け負えば確実に入ってくる報酬ですし、会社の全体像もくっきり見えてくる作業なので個人的には引き受けるべきだと考えています。
さらに、顧問報酬が満足いく金額で獲得できない現状で、経営コンサルタントとしての報酬を獲得する動きがありますが、公認会計士ならばいざ知らず、税理士にはそのような能力はないと思っています。事実そのような勉強はしていません。
したがって、今後は顧問先からの報酬単価を上げていかなければ牛丼戦争のようになり、税理士同士でお互いの首を絞め合うような形になると危惧しています。
また、AI等の進化により今後は税理士の手を煩わすことなく顧問先が簡単に記帳できるようなっていく社会情勢等を考えると、税理士一人一人及び業界全体が、独占業務である税務申告が非常に高度な知識が必要であること、手間がかかる業務であること等を納税者に理解してもらい、高品質なサービスを提供するよう努力をしていかない限り、税理士業界に未来はないと考えています。